2.色素沈着について



色素沈着について、「いつ良くなるのか?」「早く白くする方法はないのか?」とよく聞かれました。残念ながら今のところ、正確な予測はできないし、自然軽快以外の積極的方法の経験がありません。

脱ステロイド後の色素沈着の軽快例を一例示します。ただしこの方は比較的早いです。

99.10.7(初診時)



99.10.19



00.2.10 



00.5.18



01.5.31



この方は初診時34歳で、問診表には15年ほど前からアトピー性皮膚炎発症とあるので、成人発症のようでした。

4年前からステロイドを止めようと考え、温泉療養を試みたそうですが、おそらくはリバウンドと考えられる悪化のため、近くの病院に1〜2ヶ月入院・ステロイド再開した既往があります。

その後もステロイドを止めたいと考えつつも、仕事に追われて止めるに止められなかった、そういう方です。

成人発症であって使用歴が浅く、一度は離脱しようとして断念し、その後も、離脱を念頭に置いていたため、それなりに外用量も少なかったのでしょう。そのためリバウンドは比較的短かったのだと思います。



この方の場合、色素沈着が強いのは、二つの理由が考えられます。

ひとつは、「スキンタイプ」の問題です。アトピー性皮膚炎にかかわらず、炎症後の色素沈着というのは、「スキンタイプ」の関与が大きいです。

Fitzpatrickによる分類というのがあって、下図の「Tans」が色素沈着です。Type1が白人でType6は黒人に当たります。日本人はこの中間で個人差がかなりあります。これはアトピーともステロイドとも関係ないもので、変えようのないものです。



もう一つは、この方の場合、他院でテラコートリルの外用を半年間行っていた(総量不明)という点です。テラコートリルというのは、テトラサイクリン系抗生剤と弱ステロイドの合剤で、皮表の細菌をMRSAなどに耐性化させにくい一方、色素沈着起こしやすいという欠点があります。ただ、前腕を見ると、リバウンド前、常色だったのが、黒くなっていますから、テラートリルのせいだけではないことが解ります。



リバウンドがニ〜三ヶ月でおさまったあと、前記のような経過から考えて、おそらく再燃はしにくいだろうと考えられたので、色素沈着と皮膚萎縮のみになった状態を改善させる方法を模索しました。

その当時「くすみを取る」と美容で用いられ始めていたグリコール酸によるケミカルピーリングを、国立病院近くで開業されていた美容皮膚科の女医さんの協力を得て、また本人の同意を得て、右胸(向かって左)だけにやって左右差を見てみました。

99.11.25



00.2.10



00.5.18



01.5.31



99.11から00.2にかけて、11回、10%始めて、80%までupしました。80%というのはかなり高濃度です。実際、彼の施行の胸には、軽い点状のびらんが生じ、後に肥厚性瘢痕すら生じました。しかし色調において左右差は出ませんでした。



ハイドロキノンという薬品をご存知でしょうか?メラニン合成を強く抑制する作用があり、アメリカでは黒人が肌を白くするのに使われるようです。2%までのものは薬局で処方箋なしに安く替えます。美容クリニックでは4〜5%のものが用いられます。(高濃度では炎症を引き起こすことがあり医師の処方箋が必要となります。アメリカでは、「医師の処方箋が必要な化粧品」という概念があります。ご参考までに。)マイケルジャクソンがこれの濃いのを使ったのでは?とも憶測ですがいわれています。



美容クリニックを開いてから、遊びにいらっしゃった昔の患者さんに、試みに5%ハイドロキノンを首半分に一ヶ月外用してもらいましたが、左右差は出ませんでした。



だめだった理由について私なりに解説を試みます。少しだけ専門的な話になりますが、まず皮膚の断面構造を知ってください。



上図が皮膚の構造ですが、ケミカルピーリングは角層(Stratum corneum)を薬品で溶かしてくすみを取ります(強いと表皮まで達するようです)。ハイドロキノンは表皮(epidermis)最下層のメラノサイトに働きかけてメラニンの産生を阻害します。短期炎症後の色素沈着はメラノサイトのメラニン産生増強とそこから送り出された表皮・角層の色素沈着のみで、真皮(Dermis)までには及びません。しかし、アトピーのような長期慢性または再発性の炎症後色素沈着では、真皮(Dermis)上層の血管周囲にまでメラニンが落ち込んで、ちょうど刺青のようになっているようです。刺青と違って、長期的にみると自然軽快しますが、これは、落ち込んでいるのがメラニンという生理的な色素のため、分解されるなどして処理されるためでしょう。



論理的には、Qスイッチレーザーで刺青を取るのと同じ手法でこまめにとっていく方法が考えられます。現在前述のハイドロキノン無効であった方に部分的に試みている最中です。経験のある先生によれば「取れる」とのことですが、私にとっては初めての経験なので、本当かどうかわかりません。



もうひとつの可能性は、生理的なscavenger機能を何らかの方法で高めてやることです。もし血管周囲でのメラニン貪食マクロファージが色素沈着の原因なら、赤あざ(真皮の毛細血管)を取るタイプのレーザーが効く可能性はあります。血管を破壊してやれば、その周囲の再構築とともにメラニン貪食マクロファージが除かれる可能性があります。

harf side testが出来ない、たとえば内服のようなものが、果たして有効なのか?は、自然にも寛解傾向のあることなので、なんともいえません。

私は、half side testでよくなるもの、あるいは、一人だけでなく、十分多くの患者が「これは効く」というもの以外は信じない。

だけど、ハイシーだとか、ハイチオールだとか、「白くなる」と言われるものを、みんな買うよね。

否定はしないさ。気持ちはわかるもの。

ときに、その心理につけこんで、自然寛解を利用して「効いたでしょう?」という業者もいるけど、どうでもいい。

夢だって商品だ、って言われればそれだけのことだし、効くという立証できない代わりに、効かないって立証すらできないし。

何より、私にはまだカードがない。

時間かけて、炎症再燃しなければ薄くなる。

それは確か。

「それだけか、何だ、読んで損した」って人もいるでしょう。

ごめんね。だけど、上述のように可能性はあるし、これについてはまだ私なりにいろいろ試してみる予定だから。



03/10/07




炎症後の色素沈着・その2


04/01/28追記

先に記した「炎症後の色素沈着」は、湿疹のあった部位全体に、「くすみ」のように生じてくるものについてでした。

これとは別に、アトピー性皮膚炎のあと、ほくろのような色素沈着が生じてくることがあります。理由はよくわかりません。唇や肘に多いです。

これらは、Qスイッチレーザーで取ることができます。



<第1例>

Before



After(一ヵ月後)





<第2例>

Before



After(一ヵ月後)



第2例の方は、フラッシュ光線(IPL)を一回試みましたが、まったく効果がありませんでした。Qスイッチレーザーでは、一回の照射で取れました。

もしもほくろであれば、フラッシュ光線でもこういった扁平なものは取れることが多いです。フラッシュ光線で反応が悪く、Qスイッチレーザーで取れた、ということは、色調(黒み)が、ほくろに比べて薄く、組織学的に比較的浅い部(基底層や真皮上層ではなく表皮層)に存在することを意味します。その意味では、「しみ」に近いです。



上記2例とも、いわゆる「戻りしみ」すなわちレーザー照射後の炎症性色素沈着はほとんどありませんでした。口唇の場合は、元々メラノサイトが少ない部であるという理由が考えられますが、肘の場合は、元々湿疹があるため、持続的に慢性軽度の炎症性色素沈着きたしていることが関係しているのかもしれません。



第2例の方では、ほくろ状の色素沈着のほかに、色素脱失(白斑)もあります。これは、吸引水疱作成+植皮で治療(回復)が可能です。



先の章で記したびまん性の色素沈着は、時間がかかれば消退していきますが、これら限局性の色素沈着(脱失)に関しては、上記のような積極的方法によらなければ、自然回復は難しいような印象を持っています。

以上、「炎症後の色素沈着」に関しての補足でした。